避難を強いられた人々は1億2000万人超に。その背景で起こっていること
2023年、多くの難民、国内避難民を生み出し、いまも戦闘や不安定な状況が続いている国や地域の情報を中心にお伝えいたします。
公開日 : 2024-10-02
01 スーダン
戦闘により避難する人々が急増。世界の難民、国内避難民の数を押し上げる
2023年4月、首都ハルツームでスーダン軍と準軍事組織「即応支援部隊」の武力衝突が発生。エスカレートした暴力はほかの都市へと急速に拡大し、何百万人もが避難を強いられ、世界最大規模の人道危機を引き起こしています。スーダンは、もっとも多くの避難を強いられた人々が、紛争と気候関連の災害の両方にさらされている国でもあります。
国内避難民 360万人→910万人
昨年4月の衝突の発生以前360万人だった国内避難民は、2023年末には910万人に増加。スーダンは、もっとも多くの国内避難民を抱える国になりました。衝突の発生以降に国内で避難を強いられた人は、2024年9月時点で800万人にのぼり、さらに154万人以上のスーダン難民と庇護希望者が周辺国に身を寄せています。
急性食料不安 人口の42%
国内で食料不安が拡大し、昨年7月~9月の時点で全人口の42%にあたる2000万人以上が急性食料不安に直面。とりわけ戦闘地域へのアクセスは困難を極め、状況は悪化の一途をたどっており、現在北ダルフール州では飢饉が確認されるまでに至っています。

UNHCR職員の声 スーダン人職員 オマー・エルナイエム
私の国の人々には回復する力がありますが、疲弊しています。あまりに多くのことを経験しました。だから、銃がおろされ、平和が訪れるまで、どうか、スーダンのことを話し続けてください。
スーダンに身を寄せていた各国の難民はどこへ?
これまでスーダンには、主にエリトリアやエチオピア、南スーダン、シリアなどから逃れた100万人の難民がいました。現在こうした人々の多くが、まだ状況の不安定な母国に戻るか別の国に逃れざるをえないという事態に追い込まれています。
首都:ハルツーム
人口;4281万人(2019年:世銀)
国土面積は日本の約5倍。アラブ人、ヌビア人、ヌバ人、フール人、ベジャ人など200以上の部族が混在。
02 ミャンマー
2023年に戦闘がさらに激化し今年も引き続き多くの人が避難
ミャンマーでは、2021年2月に軍が政権を掌握した後に暴力が激化。昨年10月には戦闘が一層エスカレートし、以降今年8月までに、さらに130万人以上が避難を強いられています。8月時点で、国内避難民の総数は333万人以上にのぼり、133万人以上の難民と庇護希望者が他国に逃れています(約100万人はロヒンギャ難民で、その大多数は7年前にミャンマーから避難)。
首都:ネーピードー
人口:5114万人(2019年推計:ミャンマー入国管理・人口省発表)
ビルマ族(約70%)とそのほか多くの少数民族で構成。
03 アフガニスタン
アフガン難民は世界最多の640万人*に
*2023年末時点のアフガン難民の数
アフガン難民の大多数は、周辺国に身を寄せています。さらにアフガニスタン国内でも何百万人もの人々が避難を強いられており、人口の約半数が急性食料不安に直面していることから、国外からの持続可能な形での帰還の機会は限られています。また、昨年の地震に続き、今年は洪水が頻繁に起こるなど、深刻な災害により人々のおかれている状況はさらに厳しいものになっています。

UNHCR職員の声 アフガニスタン人職員 ファラマルズ・バルジーン
甚大な洪水被害のあった東部ナンガルハール州から
私たちは、甚大な被害を受けた人々に心理社会的支援を提供するためのサービスを強化する予定です。彼らの多くは、トラウマや喪失を経験しています。人々にとって極めて重要な法的書類の支も計画しています。私の国、アフガニスタンは美しい所ですが、近年の人道危機や極端な気候条件で状況が悪化しています。
首都:カブール
人口:3890万人(2020年:世界人口白書)
イランやパキスタン、ウズベキスタン、中国など、6か国と国境を接する内陸の国。面積は日本の約1.7倍。
04 ウクライナ
戦前の人口の推定6分の1が国外へ流出
2022年ほどの避難のスピードではないものの、ウクライナでは2023年も戦闘により多くの人々が国内外に継続して避難を強いられました。2024年5月時点、国内外で推定1000万人以上のウクライナの人々が避難を余儀なくされており、大規模な攻撃は同国各地で続いています。国連ウクライナ人権監視団は、同国で5月に少なくとも174人の民間人が亡くなり、690人が負傷したと報告しており、昨年6月以降で民間人の犠牲者がもっとも多い月になりました。

「私たちを気にかけてもらい、声を聴いてもらえているように感じます」
越冬支援の物資を受け取った国内避難民のスヴィトラーナさん
私たちは5人家族で、すべてを一から始めるほかありませんでした。基本的な生活必需品でさえ、すべてを買わなければなりませんでした。だから、こうして受け取れる支援はとてもありがたいものです。
首都:キーウ
人口:4159万人(クリミアを除く)(2021年:ウクライナ国家統計局)
ウクライナ人(77.8%)、ロシア人(17.3%)ベラルーシ人(0.6%)、モルドバ人、クリミア・タタール人、ユダヤ人などがいる(2001年国勢調査)。
05 コンゴ民主共和国
2023年多くの国内避難民を生み出した国のひとつ
コンゴ民主共和国では、東部の紛争の再燃により、約20年前に多くの人が避難を強いられるような状況が始まった人道危機が悪化。2024年4月時点で、109万人以上が難民となって国外に逃れているほか、720万人が国内で避難を余儀なくされています。さらに52万人以上の難民が同国に逃れており、事態は混迷を極めています。こうした状況下で、避難を強いられた人々が身を寄せている地域でもエムポックスの感染の疑いがある人が確認されており、事態はさらに悪化する恐れがあります。
世界でもっとも複雑な危機
武装グループ間の対立、民間人への想像を絶する暴力、頻繁に起こる洪水、猛威をふるう流行病……。コンゴ民主共和国では、過去30年間直面し続けてきた数々の課題により、近年かつてないほどにニーズが増大し、人口の4分の1が支援を必要としています。緊急のニーズは暴力と治安の悪化が深刻な東部に集中していますが、支援のためにアクセスできる地域は著しく限られている状況です。
コンゴ民主共和国の女性たちの声、女性たちの願い
この紛争はあまりにも多くのものを私から奪いました。夫は殺され、娘は亡くなり、孫まで殺され、家も破壊されました。
指導者たちに平和を取り戻すよう訴えます。子どもたちが学校に通えるように。それは本当に大切なことです。学校に行けば、ちゃんと成長できるからです。
女性として、お願いしているのです。横行している性的暴行から私たちを守ってください。
指導者たちに伝えてください。ほかの人に依存しなくてすむように、仕事に使えるスキルがほしいのです。
神に祈ります。平和をください、私たちが故郷に帰ることができるように。
首都:キンシャサ
人口:9901万人(2022年:世銀)
部族の数は200以上を数え、大部分がバントゥー系。アフリカ大陸で2番目に国土が広く、天然資源が豊富。長年紛争下にあり最貧国の一つ。
06 ソマリア
気候関連の災害により甚大な被害が発生し、緊急のニーズが増大
ソマリアは、政治的に不安定な状況、紛争、干ばつや洪水など、さまざまな課題に直面し続けています。2023年は紛争により67万3000人、 災害により200万人が国内で新たに避難を強いられるなど、近年紛争だけでなく気候関連の災害の影響も一層深刻化しています。
今年も豪雨と洪水による大規模な被害が発生しています
エルニーニョが引き金となった豪雨と大洪水は、東アフリカと大湖地域*に壊滅的な打撃を与えており、多くの人が避難を余儀なくされ、何十万人もの難民や国内避難民、受け入れコミュニティに影響をおよぼしています。
ソマリアでも鉄砲水や河川の氾濫により避難を強いられる人が続出するなど、今年5月までで、すでに26万8000人が深刻な影響を受けています。食料やシェルター、水と衛生、子どもの保護など、幅広い支援が必要とされています。
*コンゴ民主共和国東部、ブルンジ、ルワンダ、ウガンダなどを含む地域
首都:モガディシュ
人口:1760万人(2022年:世銀)
アフリカの角と呼ばれる地域にある国で、国土は日本の約1.8倍。ほぼ単一民族(ソマリ族)で構成されている。
多くの人が避難を強いられているそのほかの国々

07 中南米ハイチ、ベネズエラ
ハイチでは、ギャングの無差別暴力により人権侵害が急増しています。国内避難民の数は、2022年から2023年の間に倍増。さらに今年は5月までで26万人増加し、6月時点で57万8000人以上が国内で避難を余儀なくされています。人口1140万人の約半数が人道支援を必要としており、難民と庇護希望者の数も急増しています。
中南米では、ベネズエラから国外へ逃れる人々も依然として増え続けており、2023年末時点で、その総数は610万人に達しました。大多数の人々は、中南米諸国に身を寄せています。

08 南コーカサス地域
2023年、14万1900人の難民がアルメニアに避難。その大多数は、同年9月に南コーカサ ス地域で武力衝突が起こった後に到着し、現在もアルメニア各地に留まっています。
09 中東シリア
2023年、シリアで紛争が再燃し避難する人が増加。国内避難民の数は720万人となり、650万人の難民と庇護希望者を含めると、1380万人のシリア人が137か国で避難を強いられた状態に(2023年末時点)。シリア危機は今年で14年目に入り、人々の避難生活は過酷さを増す一方ですが、世界で多くの紛争が起きているいま、その窮状が注目されることも少なくなっています。
故郷を追われた人たち、無国籍の人たちの解決策
平和のなかで尊厳のある暮らしを送り生活を再建していくために、難民に開かれた恒久的な解決策には、自主帰還、庇護国における社会統合、第三国定住があります。無国籍状態におかれた人々の主な解決策のひとつには、国籍の付与があります。
第三国定住、庇護国における社会統合、自主帰還、無国籍者の国籍の取得に関する進捗状況をお伝えいたします。
*数値は「グローバル・トレンズ・レポート 2023」から引用しており、2023年の集計です
自主帰還
610万人が故郷に帰還しました (国内避難民510万人、難民100万人)
難民の帰還民の5人中4人は、ウクライナ難民または南スーダン難民です。戦争が続くウクライナへの帰還や、紛争下のスーダンから不安定な状況が続く南スーダンへの帰還が多いことからも、こうした自主帰還のほとんどは、必ずしも安全で尊厳のある帰還に資するものではなく、持続可能なものではない可能性があります。国内避難民の帰還民の主な内訳は、コンゴ民主共和国180万人、ウクライナ130万人、エチオピア北部で避難を強いられていた約53万4300人など。
庇護国における社会統合
3万800人の難民が受け入れ国で国籍を取得しました
*2023年に24の難民受け入れ国から受け取ったデータを元に算出
国籍を取得した3万800人のうち、1万4900人がオランダで、主な内訳は、シリア人(7700人)とエリトリア人(2400人)。カナダでは9400人、フランスでは2500人がそれぞれ取得しました。
第三国定住
15万8700人が第三国に定住しました
UNHCRは、15万5500人の第三国定住の申請を各国に提出しました。
無国籍者の国籍の取得
3万2200人の無国籍者が国籍を取得しました
無国籍の問題を解決するために、各地でさまざまな進展がみられていますが、世界では依然として440万人の人々が無国籍状態におかれています。
【参考】 グローバル・トレンズ・レポート 2023、UNHCR Operational Data Portal :data.unhcr.org/en/situations、UNHCR Global Focus:reporting.unhcr.org
【各国基礎データ/人口・民族情報出典】 外務省各国基礎データ: www.mofa.go.jp/mofaj/area/
UNHCRの難民支援
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