From the Field ~難民支援の現場から~ With You No. 52より / 小島秀亮 バングラデシュ・コックスバザール事務所
公開日 : 2024-10-02
バングラデシュ・コックスバザール事務所
小島秀亮(こじま ひであき)

多くのロヒンギャ難民が身を寄せるバングラデシュのコックスバザールで、私は法的保護に従事し、殺人や集団暴行から、家庭内暴力や隣人トラブルまで、難民キャンプで起きる問題にバングラデシュ人スタッフとともに対応しています。経験豊富な現地スタッフは毎日難民と向き合ってカウンセリングを行い、自ら対応できることがほとんどですが、中には複雑な事件や当局との交渉が必要な場合もあり、その場合は私たち国際スタッフと現地スタッフが協力して解決に向けて動きます。
ここ数カ月、隣国ミャンマーでの戦闘が激化しており、キャンプから難民を誘拐して戦闘員として働かせる事件が増加しています。こうしたケースでは、キャンプの治安維持にあたる部隊にかけあって捜索・救出の依頼をしたり、事実関係を把握するための情報収集をしたりします。解決が難しいケースもありますが、UNHCRがキャンプにいることで、難民たちが直接訪れ、相談できる場所があるのは、確実に彼らの支えになっています。
法的保護の支援で難民ボランティアが活躍
難民の方たちの状況を改善するためには、政府との協力が不可欠です。UNHCRはあらゆるルートを通じて高いレベルで政府に提言を行っていますが、なかなか進展はみられません。いまは国の状況が不安定なこともあり、とりわけ難しい局面だと感じています。これまでに政府への提言を通して大きく変わった点としては、数年前から難民ボランティアがキャンプで働けるようになったことです。バングラデシュは失業率が高くこの国の人でさえ働き口がない状況なので、ロヒンギャの人たちに労働許可は与えられていません。そのため、国連機関などが雇い、彼らが少額ではあってもボランティアとしての報酬を得て働くことができることは、とても重要なことだと思います。
法的保護の分野でもボランティアは重要な役割を果たしています。当地には33のキャンプがあるのですが、各キャンプに3~4名のボランティアがいて、シンプルなケースであれば彼らが相談に合った支援団体の案内などをしてくれます。また、夜中に銃声が聞こえたり洪水が起きたりした場合にも、すぐにUNHCRに知らせてくれてスムーズに支援活動を行うことができるので、ボランティアは私たちの仕事になくてはならない存在です。
劣悪な環境、先の見えない生活……海を渡る人々
ここは紛争下の国のように突然ミサイルが飛んでくるというような状況ではないものの、生活の質という面では、これまでに私が支援活動で関わったどの国よりも劣悪な環境であると感じています。たとえばいまはモンスーンの季節で、一部のキャンプは大雨のたびに浸水し、酷い場合にはボートでの移動を余儀なくされることもあります。こうした暮らしに加え、就業も正規の教育を受けることもできず、その状況に終わりが見えないことが彼らにとって一番苦しいことなのではないかと思います。最近は国外に出る決断をする人々もいて、UNHCRは海で命を落とすリスクや他国での強制労働の危険性について情報提供をしていますが、それでもたどり着くことを信じて海を渡る人たちが後を絶ちません。
雨季*のいまは、連日大雨が続きます。そんな大雨の中でも、鬱陶しそうな素振りもなく日常を過ごす大人たちと、両手を広げ、はしゃいで遊ぶ子どもたちの姿をキャンプではよく目にします。彼らを見るたびに、この人たちはなんて強いのだろうと思います。そして同時に、自分と彼らは何も変わらない同じ人間のはずなのに、いかにおかれている状況が違うか、いかに彼らを守るものがないか、その不条理さを考えずにはいられません。ロヒンギャの人々の境遇に注目が集まることが少なくなっているいま、日本人と同じ、お米を食べて生きている人たちが、たまたまここに生まれたというだけで苦しい思いをしていることに、一人でも多くの方に関心を持ち続けていただけたらと、そう願っています。ロヒンギャの人々に不可欠な支援を届ける、私たちの活動を可能にしてくださっている日本の支援者の皆様に、心より感謝申し上げます。
*雨季は5月から10月中旬頃まで
プロフィール
パリ政治学院大学院修了。台湾とフランスで国際人権法分野の仕事に携わり、その後トルコでシリア難民の支援に従事。2023年3月からUNHCRモルドバ事務所で勤務開始。現在はバングラデシュ・コックスバザール事務所で法的保護チームの一員として勤務。