UNHCR シリア 三浦 貴顕(みうら たかあき)現金給付支援プログラム担当官
シリアで避難生活を送る人が冬を生き抜くために
公開日 : 2024-10-23
シリアの冬は極めて寒冷
シリアの冬は極めて寒冷です。東京で着ているいちばん暖かいコートを持ってきて、それを着ていてもまだ寒い。気候のおだやかな首都ダマスカスでもそうなのですが、内陸部に行くともっと気温が下がって、氷点下に下がる日も多くなります。
気温だけ聞くと「日本と同じ位なら」と思われるかもしれませんが、違いは『家のつくり』です。シリアの家のつくりは総じて日本と比べると保温性が低く、家の中でもひどく底冷えします。シリアの人達は冬は家の中でも常に厚着をしています。
中でも越冬が厳しいのは、シリア北東部の避難民キャンプです。キャンプ内では皆さんテントで過ごしています。テント生活で氷点下の気温はかなり辛いと思います。
経済状況は悪化の一途
2024年で14年目に入ったシリア危機ですが、人道支援を必要としている方々は過去最大のおよそ1670万人。治安状況は一部地域で引き続きとても不安定で、経済状況は国全体で悪化の一途を辿っています。
2023年2月のトルコ・シリア大地震はシリアに大きなダメージをもたらしました。シリア国内だけで880万人が影響を受け、数万人が避難を余儀なくされました。1年半たった2024年夏の時点でシリア北西部だけでも未だ約4万人が避難所生活を送っています。
死者6000人以上、負傷者1万3000人以上。大地震は深刻な人的被害だけでなく物的被害、経済的な損害など多方面でシリアに大きな影を落としました。
『防寒支援の現金給付』
そのような状況下、シリアでは経済的な事情で燃料を買うお金すらない人がたくさんいます。中でも避難生活を送る国内避難民・帰還民の状況は悲惨です。
UNHCRシリアでは防寒支援を年間計画の中に組み込み『優先すべき援助活動』と位置付けています。
防寒支援には住居に関するシェルター支援や、防寒着や燃料などを配布する物的支援もありますが、とりわけ重要性が高いのが『防寒支援の現金給付』です。
いちばん多い用途は『燃料』
UNHCRでは現金給付実施後に「何に使ったのか」という事後調査を行います。通常の現金給付の場合、どこの国でもいちばん多い用途は『食料』です。そして『医療』『家賃』などが続きます。
一方で『防寒支援の現金給付』となると用途で一番多いのは暖房器具に使う『燃料』です。私はシリア国内で行った事後調査に携わったのですが、特にシリア北東部では「燃料に現金給付を使った」と答えた人が95% と非常に比率が高かったです。実際にはほぼ全員が『燃料』に使っていたのではないかと思います。
誰が脆弱なのか見極めはとても難しい
防寒支援は現金や物資を直接的に配布するタイプの支援なので、資金不足が直接的に活動に影響します。資金が十分に集まらなければ、まず支給額を削らなければならない。そして極端に支援が集まらなかった場合は金額だけでなく、支援対象人数を限らなければなりません。それがいちばん難しい仕事です。
とりわけ誰が脆弱なのかを見極めるのはとても難しいです。
たとえば一見病気もなく働けそうな成人男性がいる家庭は問題がなさそうに見えます。しかし実際には様々な事情があってものすごく厳しい状況に置かれていることがよくあるのです。でもそういった脆弱さがわかりにくい家庭はやっぱり最初に支援対象から外されてしまう。
シリアの人は誇り高い人も多く、「助けてくれ」となかなか言い出せない人もおられます。社会的プレッシャーなのかもしれません。そういった人のことがいつも気にかかります。
命を助ければ良くなる可能性がある
この機会に、日本の支援者の皆様にお礼を申し上げたいです。援助活動の現場で、支援してくださっている皆様に毎日感謝しています。私達の活動は支援なくしては始まりません。本当にありがとうございます。
私はいつも緒方貞子さんの「まず命を助けないと始まらない。命を助ければ良くなる可能性がある」という言葉を胸に、活動を続けております。
これからもどうぞ引き続きあたたかくUNHCRの援助活動を支えていただけますと大変嬉しく存じます。
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