戦争の悲劇の中、歌で救いを見出すウクライナの音楽家

公開日 : 2023-03-01

ウクライナ、2023年2月20日 ― ウクライナのキーウ郊外にある小さな町では、ギターをかき鳴らす音が聞こえてきます。

この川沿いの町は
魔法のたいまつの閃光のように
キャンドルの炎のように心を温めてくれる
その町はシンプルに...シンプルにマカリウと呼ばれる

門の向こう側では、教師を引退したヴォロディミルさん(65歳)が、熟練したプロのように熱っぽく、かつ軽々とこの曲のサビを歌いあげます。この曲は、彼の故郷マカリウの賛歌を決めるコンテストの一環として作曲され、彼は優勝しました。

ヴォロディミルさんの故郷への思いは、人一倍強いです。彼はここで育ち、地元の学校に通い、その後、まさにその学校で歴史の教師になったのです。現在は音楽講師としてボランティア活動を行い、作曲や音楽への愛をマカリウの若者たちと分かち合っています。

しかし、彼の引退生活は想像していたものとは全く異なっています。2022年2月末、ウクライナへの本格的な侵攻が始まった時、彼の最初の対応は、ここに残って家を守ることでした。ただし、近隣の人々が避難し始めると、家族も同じように彼を説得し、国内の安全な地域へ一時的に逃れました。

そして数か月後、ヴォロディミルさんが戻って来た時、彼の脳裏にひとつの光景が焼き付いたのです。「家を見た時、魂が泣いた。隣家にミサイルが直撃し、爆風で我が家の窓やドアは吹き飛んだ。屋根も大きく破損した。まるでハリウッド映画のようなシュールな光景だった。この場所に再び住めるようになるには、緊急の修理が必要だった。」

この数か月間、地元のボランティアとマカリウの人々は互いに驚くほど支え合ってきました。ロケット弾やミサイルがこの地域に降り注ぎ、2500棟以上の家屋が大きな被害を受けたり破壊されたりしました。民間のインフラもまた、多大な被害を受けました。

このような多くの課題を抱える中、UNHCR、地方当局、ボランティアは、この冬に家族が自宅で過ごせるよう、日夜支援を実施しています。

気温が氷点下に達する中、ヴォロディミルさんと家族が家の中で暖かく過ごせるように、UNHCRはオーダーメイドの窓と屋根用の新しいスレート(※粘板岩でできた建築材)を提供しました。ヴォロディミルさんと義理の弟、そして地元のボランティアは、自分たちで工事を行うことができました。「私はずっとこの地域に住んでおり、家の修理やその他の雑用もほとんど自分たちでできるようになりました。」

ヴォロディミルさんに新しい窓と屋根のための新しいスレートを提供するUNHCR

「暖房器具はありましせんでした。かつての生徒が新しいヒーターを購入するためにネットで資金を募ってくれました」と、畑のタマネギやジャガイモの木箱の側にある電気ストーブを指さして、彼は語ります。

自宅の修理は、自宅を“自分の楽園”と表現するヴォロディミルさんに、安堵感を与えました。ずっと慣れ親しんできた地域の中に戻り、曲作りに専念したり、小さな作業をこなしたりと、彼は最善を尽くしています。

家の奥の寝室で、彼は青いCDケースを誇らしげに掲げます。「これは私の最新アルバムです。妻はこんなことにお金を使うなんて頭がおかしいと思っているようですが、私は気にしません」と彼は微笑みます。

この寝室は、2020年12月21日に亡くなったヴォロディミルさんの亡き母のものです。壁に掛けられたカレンダーの、この日に付けられた黒い線を指差しながら「男にとって女は惑星だが、母親は、そう、銀河系だ」とため息をつきます。

この家族にとって、この家は4つのレンガの壁と屋根をはるかに上回るものです。大切な人との一生の思い出。そして、これからの時代への希望でもあるのです。

たからこそ、UNHCRは防寒対策として、キエフスカ、チェルニヒフスカ、サムスカの各州が政府によって奪還され治安状況が改善した際に、約8200棟の家屋の修理と断熱を優先的に行ってきたのです。また、UNHCRは現金給付やその他の物的支援も実施しています。国内の東部・南部地域では集中的なミサイル攻撃や砲撃が続き、重要なインフラへの攻撃がウクライナ全土に及ぶ中、自分の家で、地域コミュニティに囲まれながら尊厳ある状況で暖かく過ごせることは、人間の心の中の回復力を高め、未来への希望にもつながります。

喪失と苦難にもかかわらず、ヴォロディミルさんのエネルギーと精神は驚くべきものです。そして修復されたばかりの自宅でギターを弾くことが、この癒しに一音一音役立っているのです。

「ここにあるものはすべて、痛いほど馴染みのあるものばかり。私はここで、幸福と運命を見つけた。」

Saorlaith Ni Bhroin

原文はこちら(英文)
Makariv musician finds solace in singing amidst the tragedy of war


ウクライナでの軍事行動開始から1年。

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