難民からカンヌ国際映画祭のレッドカーペットへ、驚くべき道を進むシリアの少年
ベイルートでのゼイン・アル・ラファーの難民としての子ども時代が、賞を獲得した映画の主役へと導き、彼をカンヌの栄光、さらにその向こう側へと送り出します
公開日 : 2018-11-02
テレビカメラに向かって内気に微笑み、カンヌ国際映画祭の満杯の観客の前でステージに上がるシリア難民のゼイン・アル・ラファー(13歳)は、集まった映画スター、監督、その他の映画産業の著名人から拍手喝采を浴びました。
ジュネーブ(スイス)2018年10月9日 ― 「体が固まったように感じました。完全に固まったのです。」彼が主役を演じた映画『Capharnaum(カペナウム/原題)』が栄えあるカンヌ国際映画祭審査員賞を受賞した5月のあの非現実的な夜を思い出しながら、ゼインは言いました。「スタンディングオベーションなんて見たことがありませんでした。あれは最高の瞬間でした。」
それは、レバノンの首都ベイルートでのシリア難民としての日々の生活の格闘から程遠いものでした。ベイルートの街中で、このカリスマ的かつ機知に富んだ10代の少年は、レバノンの映画監督ナディーン・ラバキの目にとまり、主演に抜擢されたのです。
2012年、シリア南部ダルアーから安全を求めてレバノンに避難した時、ゼインはわずか7歳でした。故郷の安全の状況が悪化した時、彼は1年生を終えたばかりだったのです。「私たちの命が危機にさらされていました。彼の母親と私は、彼の安全のために、学校教育を1年間だけなら、と考えて、犠牲にしなければならなかったのです」と父親のアリ・モハメド・アル・ラファーは語りました。
このレバノン人の映画監督は、俳優ではない人間を出演させることにリスクがあることを分かっていました。しかし、最終的にはそれが映画にパワーを与えた、とも語ります。「私の映画に役者はいません。出演者は全員、自分自身の人生や役割を演じています。彼らは皆それぞれに、自分自身の人生、格闘、そして苦悩を表現しているのです。」
ラバキ監督によると、映画製作中、ゼインはいくつかのシーンにおいて、即興で脚本に自分自身の言葉を加えていました。「ゼインは彼自身の名前もほとんど書けません。しかし、彼はその小さな肩に、6か月にも及ぶ長期の撮影という重責を負うことができたのです。彼は自分自身の表現、言葉、演技を加えることさえしました。これらはすべて、とても自然に彼の中から湧き出て、各場面をさらに強いものにしました」と彼女は語りました。
木曜の夜にベイルートで一般へ特別封切された映画『Capharnaum』は、児童労働、早婚、無国籍、貧困といった、レバノン人や難民に関わる多くの社会問題を扱っています。レバノンには現在、登録されたシリア難民約97万6,000人が暮しており、その半分は子どもです。人口比から見ると、世界最多の難民受け入れ国とされています。
「ここにいる従兄弟と会えなくなるのは寂しいですが、向こうでは学校に行き、読み書きを習うことができます」

2019年アカデミー賞アカデミー外国語映画賞のレバノン代表に選ばれた『Capharnaum』のために、今年後半は取材で世界を回ることが予想されるゼインにとって、彼の輝かしい演技のインパクトは今も続いています。
また、UNHCRの支援でノルウェーへの再定住が承認された時、彼の家族は全員、願ってもない歓迎を受けました。
困難に直面しましたが、レバノンを離れるのは容易なことではありませんでした。出発の前日、暑いベイルートの夜、ラファー家族が6年間“家”と呼んでいた貧しい近郊の小さなアパートは、別れを告げる家族と友達、隣人で混み合っていました。
ゼインの妹イマンは、出発前にベイルートで兄姉や両親と一緒に参加していたカルチャーオリエンテーションの授業で学んだノルウェーの言葉を暗唱していました。しかし、ゼインは複雑な心境でした。「幸せでもあり、悲しくもあります。ここで従兄弟と会えなくなるのは寂しいですが、向こうでは学校に行き、読み書きを習うことができます。」

ゼインと家族は今、ノルウェーでの新生活に落ち着こうとしています。ゼインには眠るためのベッドがあり、同じ年の他の子どもたちのように、学校へ行き始めました。「窓から海が見えます。海のそばに座るのは楽しいですが、海で泳げません。水が冷たいのです!」と彼は言いました。
彼らのように第三国で新しい生活を始めるチャンスを得る難民の家族は世界全体で1%未満です。ゼインはある日、役者としてのキャリアを追い求めることを決めるかもしれない、と語りました。しかし今のところ、彼はついに通学という夢を果たせて、幸せです。
(動画の設定で字幕をオンにしていただければ、日本語字幕が表示されます)
Lisa Abou Khaled and Dalal Mawad
原文はこちら(英文)
Syrian boy takes incredible path from refugee to red carpet
追記:
本記事で紹介された映画『Capharnaum』が『存在のない子供たち』という邦題で2019年7月より日本でも公開されることが決定しました。
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